四月一日、春のやわらかな光とは裏腹に、強い風が庭を吹き抜けました。
その風にあおられ、江戸彼岸桜が大きく傾いてしまいました。
再び立ち上がらせるために、やむを得ず、満開の枝をいくつも切り落とします。
淡い花をたずさえたその枝たちは、しばらくのあいだ玄関に飾られ、訪れるたびに小さな春を届けてくれていました。
やがて、その命をもう一度別のかたちで残したくなり、桜染めをすることにしました。
枝を細かく刻み、火にかける。
一度、二度、三度と煮出すたびに、透明だった水は少しずつ色を帯び、ほのかな桜の気配を宿していきます。
その染液に布をひたし、静かに色を移していく。
ミョウバンで媒染を施し、色を布の奥へと留める。
木綿は気難しく、すぐには心を開いてくれないため、あらかじめ丁寧に下ごしらえをしてから向き合いました。
一度では終わらない染めの時間。
染めては乾かし、また染める。
そうして重ねた手間の分だけ、色は少しずつ深みを増していきます。
「絹には、水面に開くひらく春の気配ー木綿には落ち着いた茜の気配が宿る」
同じ桜から生まれた色でも、色々な布地により、夫々の春を映し出してくれました。
風に揺れていたあの日の花は、もう枝にはありません。
けれどそのやさしい色は、かたちを変えて、いま布の中に静かに息づいています。












