
5月の下旬、季節は春から初夏へと静かに移ろい、里山にもさまざまな生命の息吹が満ちてきました。この頃、天王森では蛍の光がちらほらと観察されはじめ、いよいよこの土地ならではの幻想的な季節が到来です。
ふと足元を見ると、野の草むらにホタルブクロの花が咲き始めていました。ここのホタルブクロ(火垂る袋)は、白っぽい花びらにほんのりとピンクの玉が薄く色を添え、まるで淡い朝焼けのようなやさしい色合い。釣鐘型の花がぽつりぽつりと散らばって咲いており、まるで森に点在する小さな灯火のようです。
釣鐘のように膨らんだその花の中では、小さな虫たちがひそやかに出入りして遊んでいました。その光景はとても可愛らしく、思わず見とれてしまいます。
「もし、この花の中に、今宵空を舞っていたホタルが一匹ふわりと入り込んだなら…」
そんな想像が心をくすぐりました。淡い花の中でホタルの光がまたたくさまは、きっと夢の中のように美しいに違いありません。自然が織りなす奇跡のような瞬間を思い描きながら、シャッターを切る手にも力が入りました。
ホタルとホタルブクロ。偶然のようでいて、どこか必然にも思えるこの季節の出会いは、静かな森の中で確かに心に刻まれました。
皆さんも、ぜひこの季節、天王森に足を運んでみてください。ひっそりと咲く花と、夜空に舞う小さな光たちが、日々の喧騒を忘れさせてくれることでしょう。